銀の狐と幻想の少女たち 拍手用SSS ①   

 過去の拍手用SSSの詰め合わせ①です。
 収録内容は以下の通りになります。

・【第81話『銀髪兄妹里歩き ②』蛇足。】
・【寝不足のまま水月苑のお手伝いに来た咲夜さんがいろいろあって赤面ダッシュする話。】
・【妖夢が小さい頃の写真を見られてふにゃあああああ!!な話。】
・【天子が月見の前で昔の自分を演じてみる話。】








▽ 第81話『銀髪兄妹里歩き ②』 蛇足。 ▽



 夜のことである。夜中にふと目を覚ました幽々子は、喉が渇いていたので台所に水を飲みにいった。そして寝室に戻ろうと廊下を歩いていたところでふと、妖夢の部屋からわずかな明かりがもれていることに気づいた。

「?」

 おかしい。今の正確な時間はわからないが、もう日付が変わっていてもおかしくないくらいの夜更けのはずだ。早寝早起きを信条とする妖夢は、とっくの昔に夢の世界へ旅立ったはずである。こんな時間まで夜更かししている彼女を、幽々子は宴会のとき以外で見たことがない。
 今日一日月見と人里で遊び倒してきたらしいのに、まだ体力が有り余っているのだろうか。それともヘトヘトになりすぎて、行灯の日も消さないまま眠りに落ちてしまったのだろうか。
 火の不始末だったらいけないので、幽々子は隙間から部屋の中を覗いてみた。

(……あら)

 妖夢は、起きていた。部屋の隅に置かれた姿見の前で、

「~♪ ~♪」

 と、耳をそばだてなければわからないほど小さな小さな鼻歌とともに。
 月見に買ってもらったという着物を着て、両腕を広げてみたり、くるりと後ろを振り向いてみたりしていた。

(……あらあら~?)

 幽々子の頬ににんまりとした笑みが思わず浮かんだ。それから、こんな夜更けに目を覚ました自分の幸運を心の底から褒め称えた。
 どうしよう、ものすごく面白いものを見つけてしまった。幽々子の記憶が正しければ、妖夢はあの着物を、自分には勿体なさすぎるという理由から押し入れの奥深くにしまったはずではなかったか。その舌が乾かぬうちからもう着ている。しかも鼻歌を歌っているし、姿見の前でいろいろポーズを変えてみたりしている。ひたすらご機嫌である。行灯の薄明かりのせいで表情までは見えないが、きっとかなり笑顔のはずだ。
 そして、幽々子もかなり笑顔である。

(なーんだ。なんだかんだ言って、やっぱり気に入ってたんじゃない)

 妖夢は派手か地味かでいえば断然後者を好む少女なので、むかし幽々子や妖忌が買ってあげた着物はみんな押し入れで埃を被っている。しかし月見に買ってもらったあの着物だけは、どうやら夜更かししてでもまた着てしまうほど特別なものとなったようだ。それだけデザインが好みだったのか――それともやっぱり、月見に買ってもらったものだからなのか。
 そういえばこの少女、以前月見からもらった『白雫』も、大切に食べるあまり最後の方は腐らせかけたっけ。

(……ふふ)

 幽々子はそっと踵を返した。あんまり長居すると気づかれそうだし、それにもうこれ以上覗き見る必要もなかった。姿見の前でご機嫌な妖夢の姿は、幽々子の網膜にしっかりと焼きついているのだから。
 寝室までの廊下をふよふよと漂いながら、幽々子はうんと頷いた。
 ――明日、月見さんに教えに行こっと。



 ○

「――ということがありましてね~」
「へえ……気に入ってもらえてなによりだよ」
「にゃあああああっ! にゃああああああああっ!?」

 次の日、妖夢は再び猫になった。








▽ 寝不足のまま水月苑のお手伝いに来た咲夜さんがいろいろあって赤面ダッシュする話。 ▽



 咲夜は一体いつ寝ているのだろう、と月見はしばしば疑問に思う。
 普通に考えれば、主人のレミリアが夜行性の吸血鬼なのだから、咲夜の生活サイクルもそれに合わせているはずである。つまり、昼間のうちに睡眠を摂って夜に仕事をしている。よって昼間に紅魔館を訪ねれば、案内をしてくれるのは美鈴かお手伝いの妖精メイドであり、咲夜は主人同様自分の部屋ですやすやと眠っているはずなのだ。
 しかし、月見の記憶が正しければ。
 今まで何度も紅魔館を訪ねてこの方、「寝ている」という理由で咲夜と会えなかった日はない。朝に行っても昼に行っても夕方に行っても夜に行っても、テキパキと館の家事をしているか、買い出しに出ているかのどちらかである。一般的な人間同様、深夜帯に睡眠を摂っているのだろうか。それで主人の身の回りの世話は大丈夫なのだろうか。
 と、いうか。
 自分はそもそも、『仕事をせず休んでいる咲夜』というもの自体、今まで見たことがないのではないか。
 なんてことをふっと考えた、ある晴れた日の昼下がりだった。

「……ぁふ」
「なあ、咲夜」
「……あ、はい。なんでしょう」

 例によって、咲夜が水月苑の掃除を手伝いに来てくれていたのだが、

「もしかしなくても……だいぶ疲れてないか? さっきからあくびばっかりだ」
「……う」

 茶の間の畳をほうきで掃く咲夜の手が、ピタリと止まった。
 そもそもこの日、咲夜ははじめから眠そうだった。こんにちはの挨拶を交わした時点で元気がないとわかった。茶の間の敷居につまづいて転びそうになっていた。月見が声を掛けると、返事が返ってくるまでやや間がある、もしくは聞き返されるということも少なくなかった。
 そして、今。先ほどから、三十秒おきくらいの間隔で小さなあくびを繰り返してばかりである。

「も、申し訳ありません……」

 月見の問いに、咲夜は気の毒なほど身を縮めて頭を下げた。月見は苦笑、

「責めるつもりじゃないよ。……でも、そう言うってことは」
「はい……。実は、いろいろあって昨日から寝ていなくて」

 思っていた以上に事だった。

「寝てない? まったく?」
「はい……、……ふぁふ」

 そうこうしているうちに、またかわいらしいあくび。咲夜は涙が浮かんだ目を人差し指でくしくしと拭う。月見は心の中でうーむと唸る。
 まさか徹夜明けだとは予想外だった。しかし、同時に納得もした。一睡もしていないのであれば、手伝いとはいえ家事の最中に睡魔をこらえきれないのも頷ける。いくら指折り優秀な従者である彼女でも、『眠い』という生理現象には逆らえないのだ。
 それにしても、

「そんな中で手伝いに来てくれたんだね。ありがとう」
「あ、いえ……」

 咲夜は少し面食らって、

「これはその、私が好きでやってることですので、お礼なんてぜんぜん」
「でも、無理はダメだよ。疲れてるんならちゃんと休まないと」

 眠いのならば眠ればいいのに、そんな中でわざわざ手伝いに来てくれる咲夜の、なんと律儀で親切で心優しいことか。咲夜が今しがた言った通り、これは彼女が好きでやっている、結局ところのボランティアなのだから、疲れているときくらい堂々休んだって月見はなにも言わないのに。

「ほらほら、今日の掃除はおしまいだ。夜になったらまたレミリアの世話とかで忙しくなるんだろう? 今のうちに寝ておいで」
「だ、ダメですっ」

 しかし咲夜ははっきりと首を振って、

「大丈夫です。月見様とお話して目が覚めましたから、最後までやります」
「いやしかし、それじゃあお前の睡眠時間が」
「私、ショートスリーパーなんです。睡眠時間は三時間もあれば事足ります」
「ほう」

 文字通り、常人よりも短い睡眠時間で健康を維持できる人間のことだ。一瞬は出任せを疑ったが、すぐに首を振る。むしろ、本当にショートスリーパーだと考えた方がいろいろと納得できる気がした。

「なのでお願いです、最後までやらせてください」
「気持ちは嬉しいけど……そんなに重く考えなくても大丈夫だよ? 私一人でもできるし、明日続きをやる形でもいいし」
「そ、それは……」

 咲夜は目を泳がせ、

「えっと、途中で投げ出すのは私のプライドが許さないので。なので最後までやるんです。はい」
「そうか……?」

 なんとなく、こっちの方はただの出任せのように感じるが――

「……まあいいや。じゃあ、早いこと終わらせてしまおう」

 咲夜がテコでも動かない目をしていたので、月見は肩を竦めて観念した。口よりも手を動かした方がいい。今から手際よく終わらせれば、休憩時間は充分確保できるはずだから。

「はい。ありがとうございます」

 ふっと花開いた咲夜の笑顔には、心なしか、いつもの元気が戻っている気がした。



 ○

 危なかった。危うく、せっかく水月苑に来たばかりなのに帰らなければならなくなるところだった。
 もちろん、十六夜咲夜は眠かった。ショートスリーパー故に一日三時間も寝れば充分な咲夜だが、昨日は――正確にいえば今日の昼まで――いろいろあってその三時間を確保することもできなかった。一睡もすることなく丸一日以上働き詰めたせいで、さすがの咲夜といえど強烈な疲労に全身を支配され、今すぐベットに飛び込みたい心地だったのだ。
 しかし咲夜はそれでも肉体と精神に鞭を打ち、「やめといた方がいいんじゃない?」というパチュリーのやんわりとした制止を振り切って、水月苑のお手伝いを敢行した。
 だって。
 だって昨日一昨日と、月見に会っていなかったし。
 ただ月見に会いたいだけならば、なにも事を急ぐ必要などなかった。昼間のうちにゆっくり睡眠を摂って、夕方頃にでも顔を見に行けばそれで充分だったろう。
 そうしなかったのは、『月見のためになにかをする』ことが、咲夜にとってとてもとても大切な意味を持っているからだ。
 例えばレミリアやフランのためになにかをして、その行いを認められ感謝してもらえると、咲夜はとても嬉しくなる。それと同じように、月見のためになにかをし、その苦労が感謝という形で報われれば、やっぱりとても嬉しくなるのだ。だから咲夜はしばしば水月苑の家事を手伝うし、作りすぎたからという名目(・・)で料理を差し入れたりもしている。
 だがここで注意しなければならないのが、『同じことを考えているライバルはちらほらいる』ということである。八雲藍とか、東風谷早苗とか。四季映姫とか、藤千代とか。最近だと、比那名居天子や神古志弦も怪しい。
 なので、先を越されてしまう可能性が常につきまとう以上、行動が早いに越したことはないのである。休んでからお手伝いをするくらいなら、咲夜はお手伝いをしてから休む方を選びたい。というか、ぶっちゃけ、今の疲労に一番よく効く薬は睡眠よりも月見の「ありがとう」だとすら思っている。
 だから咲夜は、たとえ疲れていても眠くても、今日も頑張ってお手伝いをするのだ。

「月見様、最近布団は干されましたか?」
「ん、いや、干してないよ」
「では干しましょう。干すだけならすぐできますので」
「ありがとう。……寝室は好きに入ってくれていいよ」
「はい。では失礼しますね」

 縁側の掃き掃除をしている月見に断りを入れて、咲夜は彼の寝室へ向かった。寝室というプライベートな空間にあっさりと立ち入りを許可してもらえるのは、それだけ信頼されている証のような気がしてほんのり嬉しい。一方で、あまり女として見られていないのではないかと複雑にもなる。少なくとも咲夜なら、月見を自分の寝室に入れるのはそこそこ恥ずかしくて抵抗がある。嫌、というわけではないけれど。
 さておき。
 月見の寝室は、なんてことはない畳八畳間の空間である。小さな床の間があって押入襖があって、窓には障子が嵌っている。それくらいだ。暮らし始めてまだ半年しか経っていないからなのか、それとも余計な物は置かない趣味なのか、中央できちんと畳まれた布団と、その枕元で本が数冊積み重なっている以外はがらんどうとした部屋なのだった。
 ここの敷居を跨ぐのももう何度目かになるのだが、やっぱり、男の人の部屋に入るというのはちょっぴりドキドキする。

「……ぁふ」

 それにしても本当に眠い。月見と話をしている間は大丈夫なのだが、やめた瞬間すぐこれだ。お手伝いは最後までやると――まだ帰りたくなかったので――豪語したけれど、これは冗談抜きで危険信号かもしれない。ドキドキしているのに眠い、という貴重な体験である。
 とにかく体を動かそう。そう思う。
 膝を折り、畳まれた掛け布団に両腕を回して、咲夜はふんっと立ち上がろうとした。
 情けないことに。
 その瞬間くらりと目眩がして、咲夜は掛け布団を抱きかかえた恰好のまま、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
 月見の敷布団の上に。

「………………」

 能力を使ってもいないのに時が止まった、と思う。
 現状を理解するまで、バカみたいに時間が掛かった。そしてようやく頭の中が追いついてきた頃には、もうとっくの昔に手遅れだった。
 抗いがたい強烈な睡魔。ひんやりと涼しい、肌触りいい敷布団。咲夜のぜんぶを包み込んでくれるような、ふかふかと柔らかい掛け布団。
 そして、顔を半分埋めた布地から、ほのかに鼻孔の奥で感じる、
 月見の、

「………………………………」

 やめといた方がいいんじゃない? ――そう言って引き留めようとしてくれたパチュリーは、正しかったのだろう。
 抵抗らしい抵抗もできぬまま、途轍もなく眠い咲夜はあっさりと寝落ちた。

 敢えて言うが。
 月見の敷布団の上で、月見の掛け布団を抱きかかえたまま。
 それはもう、すやすやと。



 ○

「よし……と。こんなものかな」

 縁側を含めた廊下の掃き掃除を終えた月見は、曲がりっぱなしだった腰をぐっとまっすぐ伸ばした。水月苑は広い屋敷なので、一階の廊下をひと通り掃くだけでもちょっとした大仕事だ。一念発起して雑巾掛けなんてやった暁には、腐りかけの蝶番みたいな、いかにも老人らしい腰になってしまうのかもしれない。

「さて、」

 咲夜の方はどんな感じかな――と、そう考えてふと首を傾げる。
 そういえば、咲夜は今なにをしているのだろう。最後の会話によれば月見の布団を干してくれているはずなのだが、それももう二十分は遡る話である。ただの布団干しでここまで時間が掛かることはまずない。
 まさか、シーツや布団カバーまでせっせと洗ってくれている、なんてことはなかろうが。
 ともかく捜してみることにした。ちりとりの中身をゴミ箱に捨て、月見は自分の寝室へ向かう。

「おーい、咲夜ー?」

 寝室の襖は開いていた。中を覗く、

「咲、」

 声が途中で引っ込んだ。
 もちろん咲夜はそこにいた。布団干しを許可したのは月見だし、寝室に入っていいと言ったのも月見なので、それ自体さして問題はない。むしろすんなり見つかってよかったと思う。
 問題なのは、咲夜が月見の布団に寝転がって、すやすやと夢の世界を旅していることである。

「……」

 合理的に考えれば。
 やはり、眠くて眠くて仕方なかったのだろうと思う。お手伝いは最後までやると豪語していたが、それはただの強がりであり、無茶であり、布団を持ち上げようとした瞬間思いがけず限界がやってきてしまったのだ。布団特有の、ふかふかと心地よい悪魔の誘惑に負けてしまって。だから月見の掛け布団を抱きかかえたまま、糸が切れたような恰好で敷布団の上に倒れているのだろう。

「…………」

 月見は細心の注意を払い、決して音を立てぬようそろそろと前に進んだ。断じて妙なことをしようとしているわけではない。咲夜が本当に寝ているのか、それとも具合が悪くて倒れてしまったのかをしっかりと確かめなければならないのだ。
 咲夜の寝顔がどんな風かなんて、ぜんぜんちっとも、気にしちゃあいないのだ。

「………………」

 咲夜は、間違いなく寝ていた。月見の掛け布団を抱き枕にして、規則的かつ安らかな呼吸で、チリひとつ疑いようのない完璧な眠りっぷりだった。
 微笑ましい気持ちになるなという方が無理だった。
 常日頃から落ち着きを払い、年頃の少女とは思えぬほど瀟洒な振る舞いを見せる彼女の、それはそれはひどく無防備で、ひどく幼気(いたいけ)な、まだまだ垢抜けることのない女の子の寝顔だった。
 すぴー。そんな感じの擬音が似合いそうではないか。

「……ふふ」

 息だけで笑って、月見は静かに回れ右をした。もう充分だった。咲夜は間違いなく眠っているから、だったらこのまま寝かせてやろうと思った。ここでもし咲夜が目を覚ましてしまったら、仕事真面目な彼女のことだ、お詫びだとかなんとか言って夜までぶっ通しで働こうとするはず。だから月見はここにいるべきではない。邪魔をしてはいけない。咲夜は、休まなければならないのだから。
 入ってきたとき以上に慎重な抜き足忍び足で、廊下への敷居を跨いで。
 去り際に振り返り、起こしてしまわないよう声をひそめて、

「いつも、おつかれさま」

 十六夜咲夜は、眠っている。
 月見の布団を抱きかかえて、とても幸せそうに、眠り続けている。

「………………………………んぅ…………」

 ときどき、布団にほっぺたをすり寄せたりしながら。



 ○

 そして、幻想郷の空が紅で染まる黄昏時のことだった。

「~~~~~~~~――――――――ッ!?」

 そんな言葉なき悲鳴が聞こえた気がして、茶の間で読書をしていた月見は目を上げた。同時に寝室の方からけたたましく響いてくる、ドタバタと騒々しい物音。
 だから月見は納得した。

(ああ、咲夜が起きたのか)

 今が夕暮れだから、睡眠時間としては三時間程度。咲夜基準ではバッチリ熟睡である。やはり、心身ともに疲れ果てていたのだ。
 咲夜らしからぬ全力疾走の音が近づいてくる。恐らくこのあと彼女は、襖を投げ飛ばす勢いで茶の間に突撃してきて、すみませんごめんなさい居眠りしてしまって申し訳ありませんと平謝りしてくるだろう。はてさてどうやって宥めたものかと、月見が苦笑いで考えていると、

「~~~~~~~~!!」

 咲夜は茶の間に見向きもせず一直線で玄関をブチ抜き、天狗も置き去りにしかねない猛烈な勢いのまま、空の彼方までばびゅーん!! と飛び去っていってしまった。

「……」

 月見はしばらく目をパチクリさせ、栞を挟んで本を畳み、

「……ふむ」

 なぜ咲夜は逃げたか。居眠りをしてしまった自分の不甲斐なさを嘆くあまり、という線はさすがにないと思う。それなら逃げるのではなく、今頃は月見の予想通りのことが起こっていたはずだ。
 思い出す。見えたのは一瞬だったが、咲夜は顔を両手で覆っていた。恥ずかしがりな妖夢が、真っ赤になった顔を隠すのと同じように。
 恥ずかしかったから。
 であれば原因は、不可抗力とはいえ、月見の布団で眠ってしまったから――

「……」

 そう考えると、月見も。
 咲夜は休むべきだった。眠るべきだった。咲夜を寝かせた自分の判断が間違っていたとは思わない。
 しかしいくらなんでも、年頃の女の子に結果として布団を貸したのは迂闊だったかもしれないと、今更ながら恥ずかしくなった。
 今日は違う布団で寝ようと思う。後日、咲夜になにも後ろめたいものなく報告できるように。

 ちなみに寝室であるが、布団はなぜか高級ホテルみたいにぴっちりメイキングされていた。なんというか、とても咲夜らしかった。



 ○

 紅魔館にて。
 行き詰った研究の気分転換がてら、庭をぶらぶらと歩いていたパチュリーは、

「あ、咲夜さんおかえりな――ふぎゃーっ!?」

 門のところで美鈴を蹴散らし、咲夜がものすごい勢いで館に飛び込んでいったのを目撃した。
 その勢いは館の中でも治まることなく、ドタバタと咲夜らしからぬ足音が階段を駆け上がり、自室のドアをブチ抜いて、

「~~~~ッ!! ~~~~~~――――――――ッ!?」

 言葉なき絶叫を上げながら、バンバンバンバンバタバタバタバタとなんかすごい音を響かせていた。
 ……ベットの上でバタ足している音?

「……ははーん」

 なんとなく察しがついてパチュリーはにやりとした。具体的になにがあったかまではわからないが、寝不足のまま水月苑のお手伝いを敢行した咲夜はものの見事にやっちまった(・・・・・・)とみえる。でなければ咲夜が、あの咲夜が、館の外まで響くほどけたたましくバンバンバンバンバタバタバタバタする道理などないのである。
 はてさて、一体どんな恥ずかしいコトをやらかしてきたのやら。
 翻弄される瀟洒な従者を微笑ましく思いながら、パチュリーはひとまず、蹴散らされて涙目な門番を慰めに向かったのだった。








▽ 妖夢が小さい頃の写真を見られてふにゃあああああ!!な話。 ▽



 発端は、月見のこんなふとした疑問だった。

「なあ、幽々子。妖夢って、生まれたときからああ(・・)だったのか?」
「?」

 能天気な見た目ながら意外と勘の鋭い一面もある幽々子だが、今回ばかりは見当がつかなかったようで、

「ああ、と言いますと?」

 水月苑の茶の間から、月見は外に目を向けた。今日も今日とて見事の一言に尽きる日本庭園では、妖夢が鋏を片手にあちこちの草木を手入れして回っている。
 そしてその横では、彼女の半霊がふわふわとしゃぼん玉みたいに漂っている。

「ほら……あの半霊って、妖夢が生まれたときからあんな感じだったのかなって」
「ああ」

 幽々子が納得の行った様子で頷いた。
 半人半霊というのはとても奇妙な生き物である。人間の体と幽霊の体が、それぞれ異なるものとして別々に存在している。つまり「魂魄妖夢」とは庭をせっせとお手入れしている女の子の名前であり、同時にその横でふわふわ浮いている綿菓子みたいな幽霊の名前でもあるのだ。魂魄妖夢は、一人でふたつの体を持っている――ひとつの体しかない月見からすれば、まこと不思議な種族だと言わざるを得ない。
 だが、敢えてそれはいい。今となってはあの不思議な半霊にもすっかり見慣れたので、「そういうもの」として納得している。
 では半人半霊とは、生まれた時点ですでにふたつの体を持っているものなのか。それともはじめはひとつだけれど、成長の過程でふたつに増えるか。増えるとすれば、なにかきっかけで増えるものなのか。非常に興味深い疑問である。
 幽々子は少し考え、首を傾げた。

「つまり、昔の妖夢がどんなだったか知りたい……ということですか?」
「……まあ、かなり大雑把に言えば、そうなるのかな?」

 なにかが違うような気もするが。

「それでしたら」

 幽々子ははんなりと両手を合わせ、「いいこと思いついた」と言わんばかりの微笑みを咲かせた。

「月見さんに、是非お見せしたいものがあるんです」



 ○

 というわけで、後日。

「じゃ~ん」

 幽々子が白玉楼から遥々持ってきたのは、ただの本にしてはやけに大きく、また手の込んだ装丁がこしらわれた冊子約十冊だった。
 要するに、アルバムであった。

「もしかして……」
「はい、妖夢の小さい頃のアルバムですわ」
「ほほう」

 妖夢は今日も、庭でせっせと草木のお手入れをして回っている。

「昔の写真なので、白黒ですけどね」
「これぜんぶがそうかい? たくさんあるんだね」

 一冊に約百枚の写真が収められるとすれば、十冊では千枚近くになる。

「かわいい妖夢の写真ですもの~。ほらほら、どうぞご覧になってくださいっ。そういえば月見さん、おじいちゃんになった妖忌も見たことないんじゃないですか?」

 幽々子が早速うきうきと一冊を広げ、その中の一枚を指差した。それは小さい女の子と初老の男性が、木刀を片手に剣の稽古をしていると思しき写真だった。

「へえ……」

 昔の写真だからか白黒で写りもよくないけれど、月見がこの顔を見間違えるはずもない。まだ五~六歳くらいのちっちゃい妖夢と、すっかり皺の目立つ顔になった妖忌だ。
 思わず笑みが浮かんだ。

「いい写真だね」
「私のお気に入りなんです~」

 恐らく撮ったのは幽々子であろう。いかにも「たあー! とおーっ!」とやんちゃな感じでちっちゃい妖夢が木刀を振り回し、それを妖忌が幸せそうな顔で受け止めている、なんとも微笑ましい一家団欒の一枚であった。
 あいつ、さては相当な親バカだったな。そう月見は思う。

「この頃の妖夢は本当にかわいかったんですよ~。なにをするにも私や妖忌の後ろをついて回って、『ゆゆこさまだいすきーっ!』って」
「……ふふ。そっか」

 幽々子から手渡されたアルバムを、一頁めくる。

「これは、妖忌のおみやげでお団子をもらったときの写真ですわね」

 妖忌から団子を一本もらって、ちっちゃい妖夢の瞳が白黒写真でもわかるほどきらきら輝いている。

「隣が、そのあとすぐ転んでお団子を砂まみれにした妖夢」
(妖夢……)

 転んだ直後に撮った一枚であろう、地面に突っ伏した恰好の妖夢が、目の前で砂まみれになったお団子を涙目で睨みつけている。本気で泣き出す五秒前。

「あっ、これは妖夢が川に落ちて流されてるやつですわね~。ゆゆこさまーっゆゆこさまーっおたすけくださいーってほんっとかわいくて」

 写真撮ってないで助けてやれよ。
 しかし、まあ。

「……妖夢は昔から妖夢だったんだね」

 目に浮かぶようだ、小さい頃からあんな失敗やこんな失敗をして涙目になったりいじけたりしている妖夢の姿が。五百年も幻想郷を留守にしていたのは手痛い失敗だった。数年おきにでも帰るよう心がけていれば、アルバムの中にいるちっちゃい妖夢をこの目で見られていたかもしれなかったのに。

「そうそう、こっちの写真も面白かったんですのよ。妖夢の十歳の誕生日だったんですけど」
「どれどれ」

 アルバムを次々取り替え絶えず頁をめくり、月見と幽々子はすっかり妖夢の話で盛り上がった。アルバムに収められたちっちゃい妖夢の姿が、妖忌が親バカと化したのも已むなしとばかりに愛らしかったせいもあるのだと思う。
 そもそもどうして、妖夢のアルバムを持ってくるなんて話になったのか。
 そんなのは月見も幽々子も、もう綺麗さっぱり忘れてしまっていた。



 ○

「――お二人とも、なにを読んでるんですか?」
「ん……ああ、妖夢」

 ふと気がつくと、庭の手入れを終えたらしい妖夢がちょうど茶の間に戻ってきたところだった。

「お疲れさま。いつもありがとう」
「あ、いえ、そんな……わ、私が好きでやってることですからっ」

 妖夢は照れくさそうに両手を振って、

「そ、それより随分盛り上がってましたけど、その本は一体?」
「ああ、お前の小さい頃のアルバムだよ」
「あーなるほど、私の小さい頃の――ゑ?」
「月見さん月見さん見てくださいっ。これ、妖夢が生まれてはじめて水着」
「んに゛ゃああああああああああ――――――――ッ!?」

 妖夢が奇声をあげて、幽々子にフライングボディアタックをした。

「ふぎゅ!? なにするのよー!」
「それこっちのセリフです!? なななななっ、なにしてくれちゃってるんですか一体!? なんで私のアルバムを! よりにもよって、月見さんに見せたりしてるんですかああああああああ!?」
「いたたたたた!?」

 幽々子の手からアルバムをかっさらい、それで彼女の頭を容赦なく叩く叩く。その、顔面真っ赤でぐるぐるおめめな妖夢の姿を見て、月見はまさかと思った。

「幽々子……まさかお前、妖夢に内緒で持ってきたんじゃ」
「そのまさかですよおおおおお!! わ、私は、要らなくなった古本を月見さんにお譲りするんだって聞いてたのに! 聞いてたのにいいいいい!!」
「妖夢いたいーっ!?」
「……」

 よくよく考えてみれば。
 確かに少なからずの恥ずかしがり屋である妖夢が、自分の小さい頃のアルバムを、異性である月見に見られたがるとは思えない。事前に事を知れば血相を変えて止めようとしてくるはずであり、だからこそ幽々子は『古本』なんて嘘をついて勝手に持ってきたのだろう。
 月見はゆっくりと天井を振り仰いだ。

「……ごめん妖夢、そうとは知らなかった」
「うううっ……」

 妖夢はすっかり涙目で、

「つ、月見さん……これ、どれくらい見ちゃったんですかっ……?」
「……」

 月見はいたたまれない空気に押し負け、正直に話さざるを得なかった。

「……まあ、その。ほぼ、ぜんぶね」
「月見さんにぜんぶ見られたああああああああっ!! うわああああああああん」

 たとえ大いに誤解を招きそうな言い回しであっても、今の月見にはなんの反論もできなかった。

「そ、そもそもどうしてこんなことになってるんですか!? どうして私のアルバムなんかを!」
「それはほら、」

 間、

「……あれ? そういえばなんでだったっけ」

 幽々子も首を傾げ、

「……なんででしたっけ?」
「理由もなくぜんぶ見られたああああああああっ!! うええええええええ」
「妖夢いたいってばーっ!?」

 涙目で主人をぺちぺち叩く妖夢の顔が、写真で見たのとそっくりだったから。
 月見はうんうんと頷きながら思う。――やはり妖夢は今も昔も妖夢であり、きっとこれからも妖夢であろう。

 もちろん、アルバムはぜんぶ没収された。










▽ 天子が月見の前で昔の自分を演じてみる話。 ▽



「なあ、天子」
「なに?」
「昔のお前って、どんなだったんだ?」
「」

 月見が興味本位に投げかけた一言で、天子は髪の毛の一本から足の指先まですべて漏れなく氷結した。
 例によって、天子がせっせと新しい桃を持ってきてくれた朝だった。決して小さくもない箱を天界から地上まで、少女の細腕では重労働だろうに、天子の差し入れが途切れた試しは今のところ一度もない。お陰様で、今や天界産の桃は、温泉と並んで水月苑の名物のひとつなのだった。
 それはさておき、桃がこんもり詰め込まれた箱を台所まで運び終え、茶の間へ戻る道すがらの縁側にて。何気なしに月見がそう問うてみたところ、背後にくっついてきていた天子の足音がぱたりと途切れた。
 振り返る。天子が、「なに?」の「に」の状態で綺麗な彫像と化している。まさか私以外の時が止まったわけではあるまい、とつい疑ってしまうほど見事な固まりっぷりだった。
 どこかでちゅんちゅんと雀が鳴いて、天子はようやく再起動した。立て付けの悪い引き戸みたいな口振りで、

「む。……昔の、私?」
「ああ。わがままで傍若無人だったっていうけど、具体的にはどうだったかなと」
「具」

 また、ほんの束の間氷結。それから口の端がじわじわと引きつり、視線がやけに落ち着かなくなり、声のトーンが三度ほど高くなって、

「あ、あはは。どうっていっても、文字通りのわがままっていうか」
「ああそうだ、昔に戻った気分でちょっと実演してみてくれないかな」
「じじじじじじじ」

 蝉かお前は。

「えっ、と!! ……きゅ、急にどうしたの!? なんでいきなり!?」
「ふっと気になったから、ではダメかな」
「だ、ダメでは……ないけど……」

 うぐぐ、と天子が唸っている。今の天子にとって昔の自分は、進んで人に話したい部類ではない、ざっくばらんに言って黒歴史みたいなものらしい。
 ますます興味が湧いた。

「ちょっとでいいから」
「う、うー……」

 天子はその場に縮こまって、若干睨むような上目遣いで、

「……月見は、知りたいの? 昔の私」
「ああ」
「それは、その。……私、だから?」
「もちろんだとも」

 今の天子は、山の天狗衆を以て『マジ天使』と讃えられる明るく健気な少女だ。わがままで傍若無人な天子なんてまるで想像できない。だからこそ、知ってみたいと思う。それはまさしく、「天子だから」であろう。
 もはや『睨むような』ではなく、じとーっと睨まれた。

「……サラリと即答しちゃうんだもんなあ……」
「? なにかいけなかったかい」
「別にそうじゃないけどー……」

 なぜか不満げな天子は、膨らました頬の空気をため息に変えて、

「でも、急に実演なんて言われても……どうすればいいの?」
「私と天界ではじめて会ったとき、覚えてるか? あれを昔のお前でやってみるってのはどうかな」
「……覚えてる、けど」

 なかなか決心がつかないのか、天子からの返答は歯切れが悪い。「はじめて月見と会えたときだし……」ともじもじしている。もちろん月見とて、快く人に教えられるような話題でないのは百も承知している。例えば藍に同じことを頼んだら、「それだけは勘弁してくださいお願いします」と虚ろな目で土下座されるだろう。

「私になら話してもいい、と思ってもらえたらでいいさ。ただ、私が知りたいだけだからね」
「……月見、ズルい」

 天子はますます月見を上目で睨んで、しばらくしてから、踏ん切りをつけるように深く息を吸った。
 若干、ヤケクソみたいな目をしていた。

「……こんなことするの、月見だけなんだからね? だ、誰にも言わないでよ?」
「ああ」

 じゃあ……と、天子がしずしずと月見から距離を取る。天子とはじめて出会ったとき、彼女は緋想の剣とともに舞を舞っていた。そのときの光景を思い起こしながら月見は、

「では。――なにしてるんだ?」
「あん?」

 天子の表情が変わった。柔らかくあどけなかった佇まいは霧散し、鋭く、冷たく、そして不機嫌な眼差しで天子は月見を射抜くと、

「――なに、あんた?」

 声も、まるで別人に聞こえる。気の小さい相手が聞いたらそれだけで萎縮しそうなほど、途方もない隔たりを突きつけられていると感じる。天子の『不良天人』という呼び名は、彼女が天人として正式な修行を積まなかった出自に由来するらしいが、もしかすると別の皮肉が込められていたのではないかと月見は邪推した。

「私は月見。ただのしがない狐だよ」
「へえ。で? 地上の妖怪風情が、誰の許しを得て天界の土地を汚しに来たのかしら」

 なるほど、これは傍若無人と評されるわけだ。
 想像以上に今の天子とギャップがあって、月見はちょっと面白くなってきた。

「なに、私たちの体から気質が漏れてるようでね。その流れを追ってきたらここに辿り着いたんだけど」
「呆れた。そんなことにためにここまで昇ってきたわけ? 地上のヤツらって暇なのねえ」
「くっ」

 いけない、あまりのギャップに少し吹き出してしまった。澄まし顔をしている天子の肩が、小さく、しかし確かにぴくりと震えた。

「ま、まあ、そんなに暇だってんならちょうどいいわ。あんた、私の下僕になりなさいよ」
「く、く、く」
「て、」

 天子の顔が段々赤くなり、ぷるぷると震えてきた。

「て、天界の総領娘たる私の遊び道具になれるんだから、光栄に思うことね。あ、もちろん拒否権なんてないから」
「くくくくく、」
「なっ、なによその反応、文句でもあるわけ? 地上の妖怪のくせに、ず、随分生意気」
「あっはははははははは!!」
「うわあああああああああああああああんっ!!」

 月見は呵々大笑し、天子は真っ赤っ赤になって絶叫した。

「忘れて!! 忘れてえええっ!! ち、違っ! ちょっと言い過ぎた! 違くて、その、言い過ぎちゃったのぉっ!!」
「く、く、く。なるほどねえ。なるほど確かに、『わがままで傍若無人なお嬢様』だな」
「忘れてええええええええええっ!?」

 涙目で半狂乱な天子が、うえええん!! とぽかぽか殴りかかってくる。痛くも痒くもないそれを背中で受け止めつつ、月見はなおもくくくと肩をひくつかせる。

「違うからね!? 違うんだからね!? 今の私はもう、ぜんぜんあんなじゃないんだからね!?」
「わかってる、わかってるさ」

 大きく息継ぎをし、

「ふう。……でもそう考えると、お前は本当に変わったんだね」
「う……」

 天子が、たじろいだ。ぽかぽか叩くのをやめて、月見の裾をきゅっと握って、

「……う、うん。月見の、おかげ……」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないっ」

 顔を上げたのはほんの一瞬で、天子はすぐに逃げるように俯いた。熱っぽい指先で月見の裾を皺くちゃにし、消え入る寸前のか細い声音で、ささやいた。

「ぜんぜん、おおげさじゃ、ないもん……」
「……そうか」

 あの傍若無人な少女が、こうも変わったのだと。そう思うと、月見は淡く笑みを描かずにおれない。
 実際月見がどれだけ彼女に影響を与えたのか、そんなものはどうだっていい。大事なのは、今の天子は優しくて、健気で、山でも人里でも話題の絶えぬ人気者であり、多くの人妖に笑顔を与えているということだ。
 月見だって、その中のひとり。
 天子の行く先には、これからもきっと、暖かな陽だまりが広がっていよう。そしてそれを、月見はかけがえのない幸福なのだと思う。

「……と、ともかくっ」

 ほのかに色づいた顔で、天子がわざと勢いよく言った。

「さっきのは、絶対に誰にも言わないでよ!? 約束だからね!?」
「ああ、もちろんだとも」

 月見は頷き、それからこちらもわざとらしく、

「ただ――」

 向こうまで聞こえるよう声の調子を上げて、いい感じに木々で隠れた庭の先を指差した。

「――ひめは、ちゃっかり聞いてたみたいだけどね」
「ひいいいいいめえええええええええええっ!?」
「ひえええええええええええ!?」

 天子が獣の動きですっ飛んでいき、わかさぎ姫は悲鳴をあげた。木々の向こうで、水面がばしゃばしゃと激しく波立つ。
 そりゃあ水月苑の池で暮らしている人魚だし、縁側から話し声が聞こえたら、なんだろうと聞き耳を立てもするだろう。

「聞いてたの!? 聞いてたのね!? 忘れてぇっ!! 忘れなさあああああい!!」
「ごめんなさい!? あ、あのあのっ、旦那様を下僕にしようとしたことは、ちゃんと黙ってますのでっ!」
「違うんだってばああああああああああっ!?」

 小さな弾幕を池に向けてぴしぴし連射する天子と、右へ左へあちこち泳いで逃げ回るわかさぎ姫。そんな二人の元気いっぱいな姿を目で追いながら、月見は笑みとともにひとつ頷く。
 今日も、賑やかな一日となりそうだ。
 天子の半泣き声、そしてわかさぎ姫の悲鳴が響き渡る水月苑は、今日も今日とて平常運行である。









2017.09.24(日) 19:00  /  COMMENT(6)  /  TRACKBACK(0)

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3709/ Re: モフっ狐さん

モフっ狐さん>
 楽しんでいただけましてなによりでございます。
 チビようむが「たあー!」「とおー!」と見様見真似の二刀流で楽しそうにチャンバラしてる光景……その頃に、録画という手段が幻想郷で確立されていなかったことが悔やまれますナ(´-`)
 ではでは、コメントありがとうございました。


2017.11.05 02:44 / 雨宮雪色 #- / URL[EDIT]
3678/

出て来るキャラがいちいちどストライクなんですよねえ。
ちびっこ妖夢、みてみたいですねえ。誰か絵の上手な人、妖忌と妖夢のチャンバラごっこの風景、描いて欲しいです。

ゆゆこさま〜っホッコリ


2017.10.29 06:34 / モフっ狐 #- / URL[EDIT]
3610/ Re: 夜兎さん

夜兎さん>
 合言葉は、「天子ちゃんマジ天使!」でございますよ! 天子ちゃんマジ天使っ!
 ではでは、コメントありがとうございました。


2017.09.30 21:07 / 雨宮雪色 #- / URL[EDIT]
3608/

天子本当に可愛くてニヤニヤしまいました笑
いやほんとに天使ですね笑


2017.09.28 19:34 / 夜兎 #- / URL[EDIT]
3237/ Re: カズさん

カズさん>
 残念美人!
 楽しんでいただけましてなによりでございました(´ω`)
 ようじょ妖夢……きっと、木の枝を持って「たあー! とおー!」とチャンバラごっこをしてるんでしょうね。泣かせたい(紳士的欲望
 ではでは、コメントありがとうございました。


2017.05.21 22:38 / 雨宮雪色 #- / URL[EDIT]
3226/

残念美人!

ショートストーリーもよかった!
幼妖夢を見てみたい!!


2017.05.17 08:54 / カズ #- / URL[EDIT]

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